January.2002


はじめに
以前NEC製の3極管で「6R-A8」という電力増用MT管がありました。「6R-A8」は、当時人気(今も人気)の「2A3」の小型版というコンセプトで開発され、それ相応のパワーと音質を誇っておりました。現在、「6R-A8]は製造されていないのは当然の事ながら、差し替えの出来る球も無い様です。真空管式パワーアンプのセールスポイントに「視覚」が重要視される今日、ST管やGT管の様なでかい球に趣向が片寄ってしまい、「6R-A8」の様に扱いやすい球がすたれてしまうのは本当に惜しいことです。

さて、私の友人が、「直せるか?」といって「6R-A8」をプッシュプルで4本使用したセットを持ち込みました。どこかのKITらしいのですが、配線のむちゃくちゃなのは仕方がないとして、問題は「6R-A8」が1本欠品なのです。根気よく探せばペアの「6R-A8」はあるでしょうが、代用品の無い今日、修理をしても永くは持たないと判断して、シングルアンプに作り替えました。
その際、当然ながらトランス関係をシングル用に換えましたので、プッシュプル用OPTとPTが余ってきました。

真空管式アンプを作るぞ
このトランス、あまり大きくはありませんが、上部に「山水」の紋章が入っています。かっこいい。これを再生しなくて電気の趣味を持っているとは言えません。さっそく特性のチェック。バランスも取れていて、誠に良い性能です。ただOPTの電流があまり大きく取れない。やはり3極管程度しか駆動できないようです。

真空管は何にする
多くの3極管を見たのですがどれも1長1短、適合するものがありません。「
6R-A8]がすたれた原因もこの辺りにあるのかも知れません。半ばあきらめていた時、5(4)極管の3極接続に気が付いたのです。これならあるかも知れない。真空管の規格表を見直すと、ありました「6L6−GC」、何だこんなに身近な球が使えるのか。

設計だ
回路は基本で良いでしょう、凝ったことをして良い音になった経験がないものですから(^_^;)。電源が割合貧祖なので、効率よく電流を取り出すためにチョークトランスを入れました。又、初段のヒーターを直流点火にするため6.3Vのヒーターを直列につなぎ、3端子レギュレーターを通して12Vのヒーター電圧を得ました。「6L6」のバイアスはツェナーダイオードによって正確で安定した電圧を供給出来るようにしました。従いまして初段は「12AX7」です。
使い勝手を考慮すると、小型の方が良いので、出来る限りつめて設計しました。
低周波アンプも大きく見れば広帯域アンプです。乱暴な設計をすれば、可聴帯域外の「雑音」まで増幅してしまい、測定器では問題ないのに何かざわざわした音になってしまうという失敗があります。最近パソコンが近くにある生活の関係で、「雑音」の危険はやたらと増えました。そこでAC入力部分と安定化電源部分にノイズフィルターを入れました。信号入力部分は真空管の特性で高周波を押さえる事とします。

製作 詳細
仕事の合間を縫ってぼちぼち製作したので、2ヶ月かかりました。注意したのは、信号の行き先を明確にすること。シャーシーをアースラインにしたり、アースラインがあるからと言って信号線を代用すると、どんなにしても音のバランスが良くならない場合があります。

試聴するのだ
完成したアンプに対してちゃんとした測定器がないのでずいぶんいい加減です。まず無信号時のハムノイズは確認出来ません。初段の直流点火が効いています。トーンオシレータをつないで出力電圧を測ってみましたが、50Hz辺りから20.000Hzまで、非常に安定しています。実際の音質ですが、「自作」というものは思い入れがあるものですからすご〜く良い音に聞こえます。特に管楽器の音なんか近くで鳴っているみたい。低音の癖もなくボーカルも聞き疲れしない・・・。やっぱり思い入れが沢山はいっているな。
尚、初段のグリッド抵抗と終段へのカップリングコンデンサ、及びNFB用抵抗は色々換えて決定しました。これらはカットアンドトライで何度も換えてみる必要があります。専門誌が「良い」と書いてあるものが必ず良いとは限りません。

我が奥様が、パソコンで絵を描いている間中、こいつでCDを聞いていますが、完成してから1年を過ぎて、何のトラブルもなく聞きやすい音で鳴り続けています。